老若男女問わず、健康や趣味のために運動やスポーツを楽しむ人は多いでしょう。しかし、それによって思わぬ事故や突然死の可能性があることを忘れてはいけません。気軽に通えるフィットネスジムであっても、同様のリスクがあります。
適切にAEDを設置していれば、より安全にスポーツを楽しむことができます。ここでは、週4~5日フィットネスセンターに通っていたジョー・サイアさんが突然倒れ、AEDによる救命処置を受けて命を取り留めた事例を紹介します。心停止は誰にでも起こりうるため、予知することは非常に難しい一方で、迅速な胸骨圧迫とAEDによる処置で命を救えることを知っていただきたいです。
51歳のフィットネス愛好家、ジョー・サイアは、この5年間、アイオワ州北部のクレスコ・フィットネスセンターに毎週4、5日通いトレーニングに勤しんできた。彼のルーティーンは、1マイル(約1.6㎞)走ったあと、クールダウンのため歩いてから筋力トレーニングを行うことだった。ふだん、彼はトレーニングエリアの外周にある屋内トラックを走っていたが、外気温が高い場合は、瞬発力と持久力をつけるために、軍にいたとき学んだように屋外で走ることもあった。
しかし、最初にジョーに対応した救急救命士ジョシュ・ムーアはまったく異なる印象を受けていた。ジョシュ はジョーを個人的に知っていたわけではなかったが、自分がクロストレーナーでトレーニングをしている時に、ジョーがトラックを走っているのをよく見かけていたため、顔だけは知っていた。
「その日、ジョーが普段と違うことに気づき、体調が良くないのかなと思いました。彼は大汗をかいて、両腕をだらりと下げ、苦しそうにしていました」とジョシュ は語った。
ジョシュは、トレーニングを終える5分ほど前にドタンという大きな音を聞いた。「最初は誰かがトレーニング用のおもりを黒いゴムマットの上に落としたのかと思いましたが、誰かの足元に落ちてきたのならあがるはずの叫び声は聞こえませんでした。ちょうどそのとき、トレーニングを終えたばかりの妻が私を引っ張り、"あの人、大変よ"と言ったのです」とジョシュ は振り返る。
ジョシュは妻が指さす場所に駆けつけ、ジョーがトラックに倒れ込んでいるのを見つけた。ウェイトトレーニングをしていた人が「大丈夫ですか?大丈夫ですか?」と繰り返しジョーに尋ねたが彼は反応せず、瞳孔が開き、呼吸が困難な状態だった。
「そのときジョーの眼は開いたままで、私は"ジョー、私が判るか?"と呼びかけ、次に彼の脈を取って、"これはいかん"と思いました」とジョシュは語る。
ジョシュは直ちに胸骨圧迫(CPR)を開始し、さらに自動体外式除細動器(AED)を持ってくるよう誰かに頼もうとした。ちょうどそのとき、クレスコ・フィットネスセンターの受付係ベッキー・クリーガーがZOLL® AED Plus® を手にして駆けつけた。ベッキーがプールエリアから出ようとしたとき、センターの救護員2名が彼女に向かって必死に手を振って合図をしたため、緊急事態の発生に気づいた。そして、救護員が救急番号911に電話している間に、彼女はZOLLのAEDを素早く手にして現場へ向かったのだった。
ベッキーはAED Plusを持ってジョーが倒れた場所に駆けつけ、ケースを開いて電極パッドを取り出した。ジョシュはAEDをジョーに繋ぎ、電源を入れた。「AED Plusから電気ショックを与えるようアドバイスが直ちに出されたので、私は"みなさん、後ろに下がってください、後ろに下がってください。"と言いました」とジョシュは語る。
電気ショック後、AEDに搭載されている胸骨圧迫ヘルプ機能が行う胸骨圧迫の質に対するリアルタイムのフィードバック("胸骨圧迫は有効です"などのガイダンス)を得ながら、ジョシュは胸骨圧迫(CPR)を継続した。30秒後、ジョーの顔を見たところ突然彼の瞳孔が狭まり、まばたきするのが判った。そして大きく呼吸するのが見えたとジョシュは回想する。
ジョシュは、「AEDがジョーの命を救ったのは確かだと思います」と言い、「私は現場に居て、AEDの効果を目の当たりにしました。私は早期に除細動を行うことが救命に非常に重要だと信じます。胸骨圧迫だけではジョーの命は救えなかった。心拍リズムは彼の生命を脅かしかねないもので、正常な状態に戻す必要がありましたが、AEDはまさにそのための手段でした」と語る。
その後、ジョーは50マイル(約80㎞)離れたミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニックに搬送された。医師による検査の際に、ジョーは、明らかな予兆や危険を示す兆しはなかったと繰り返して言った。ジョーを襲った事態の間にAED Plusが自動的に記録した蘇生データは、ジョーが不整脈であるという医師の診断に役立った。そして、その後の心拍リズムの問題を適切に管理できるよう、植込み型除細動器がジョーの体内に植込まれた
ジョーとジョシュが再会した際、ジョーは次のように述べた:「ジョシュ がしてくれたことすべてに感謝しています。神は適切なタイミングで、適切な場所に、しかるべき理由でジョシュを呼んでくださった。私の救命処置において、ジョシュは最高の人物でした。彼は教わったとおり、マニュアルに従ってすべてを行い、最善の結果を導きました。私には、やるべき仕事がまだ沢山あると思っています。だから神は私が生きるにふさわしい者と思われたのでしょう」。
一方で、ジョシュは次のように述べています:「私が知っている緊急医療チームや救急救命士で、救護の現場に居合わせたとき"大いなる力(神)が存在する"ことを否定する者はいないと思います。信仰心なくしてはこの仕事をやり遂げることはできません。現場に私が居合わせたのには理由があったのです」
クレスコ・フィットネスセンターのアシスタント・マネージャーで赤十字社の認定資格を有するCPR/AEDトレーナーのウェンディ・ボーは、センターへのAEDの導入を当初は躊躇していた。ウェンディは誰かに誤って電気ショックを与えるのを恐れていたからだ。スタッフと地域の医師らは、心停止が突然起こることと、AEDがこうした種類の事故に備える手立てであることを強調し、AEDの購入を強く勧めた。AEDの訓練を受け、ウェンディはAEDが状況をすべて分析することと、恐れや不安を払拭するものであることを理解した。彼女は今、センターがあるエリアのいくつかのプールにAEDが設置されていないことを懸念している。
また、ベッキーは、「このセンターにAEDがあって良かった」と言い、「AEDが使われ、その威力が発揮され、AEDが示す手順のとおり人々が救命活動を行う姿を見るのは本当に素晴らしいことでした。人々が集まるすべての場所にAEDを設置する必要があります」と述べている。
ジョーのジムへの復帰には、ゴーサインが既に出されているが、彼は手術から完全に回復しウェイトトレーニングができるようになるまで復帰を延ばすことを決め、「元の状態に戻るには時間がかかりますが、必ず回復すると信じています」と語っている。