2016年6月6日(月)に旭化成守山製造所において、従業員の勇気ある救命処置により、米国人出張者の尊い命が救われました。救命処置にあたった方々へのインタビューと関係者のコメントをもとに、その救命処置についてご紹介いたします。
旭化成グループでは「グループ健康管理ガイドライン」において、各地区の健康センター長等ならびに健康管理担当者は、関係部門、産業保健スタッフ、外部専門機関と協力し、救急搬送や心肺蘇生など必要な対応ができるよう体制を整備することを定め、AEDの設置ならびに従業員への救急救命講習の実施を促しています。また、AEDの設置目安として「5分以内にその部場の誰もが持ってくることができる距離に設置すること」や救命講習は「1年に1回毎年定期的に受講すること」を一般的に推奨しています。
11:44 工場入り口で倒れていた米国人出張者(男性)を発見した従業員が消防署へ通報。さらに工場スタッフの古田さんへも連絡が入り、古田さんは現場へ駆けつけ、AED装着の準備を始める。
11:45 工場スタッフの村井さんも救急車入場の連絡を受け、現場へ到着。古田さんが男性にAEDを装着、心電図解析結果に基づき電気ショックボタンを押した。(心電図解析結果1回目:電気ショック必要、2回目:電気ショック不要)
この間、村井さんは胸骨圧迫を継続して実施。
11:48 武田産業医が現場へ到着。男性の脈が触れないことを確認し、村井さんと交代し胸骨圧迫を継続。3回目の心電図解析では電気ショックが必要との判定で、古田さんが電気ショックボタンを押した。
11:49 救急隊員が到着。医療器具による人工呼吸を開始。男性の脈が触れるようになったため、胸骨圧迫を中止。救急車へ移送し、病院へ。男性は意識を取り戻し、約3週間の入院を経て無事帰国し、職場復帰された。
古田:
男性が工場の入り口で倒れていました。体を動かしながらうめき声をあげていたため、意識も呼吸もあると思いましたが、急変した時に備えてAEDを準備しました。その後、男性はあえぎ、しゃくりあげるような不規則な呼吸*となり、顔色が紫色に変化しました。AEDをセットすると電気ショックが必要な状態だったので、一瞬戸惑いましたが、即座にボタンを押しました。
村井:
私が駆けつけたときは、AEDの装着が始まったところでした。訓練と同じようにしなければならないと思いました。
*心肺停止直後の傷病者に見られる呼吸。死線期呼吸。
村井:
AEDを装着すると、「心電図を解析します」とのメッセージが流れました。
古田:
そのとき、2~3人の方が倒れている男性に触れようとしたため、触らないように強く言った記憶があります。
村井:
その後、「電気ショックが必要です」とのメッセージが流れ、古田さんがスイッチを押しました。ドラマなどで見るように、電気ショックを行った瞬間に体が跳ね上がったのを覚えています。続いて「胸骨圧迫を始めてください」というメッセージが流れたので、男性との位置関係が適切であった私が胸骨圧迫を開始しました。最初は圧迫が弱かったようで、「もっと強く押してください」というメッセージが流れたので、思い切って体重を掛けて圧迫を行いました。その後「胸骨圧迫は有効です」というメッセージが流れたことと、男性の顔色に少し血色が戻ったように感じたため、自分のアクションに自信が持てました。その後武田産業医が到着するまで無心で押し続けました。
村井・古田:
「救命講習で習う胸骨圧迫とAEDの使用方法は、命を失いかけている方を確かに助けられる方法であること」を伝えたいです。正確な手順を覚えていなくても、AEDの指示に従って命を救うことができるのです。そして、そのチャンスは2度と訪れません。躊躇してはいけないと思います。
次に、救急救命は胸骨圧迫とAEDの操作だけではありません。周囲のメンバーがAEDの装着のサポートをしたり、倒れている人に声を掛け続けたり、胸骨圧迫の回数を大きな声で数えたりすることで、救助作業をする人は勇気づけられます。
最後に、一刻を争う状況において、短時間で持ってこられる位置にAEDが設置されていることが非常に大切です。設置数を増やすことで救命のハードルを下げることができ、救命率の向上につながると思います。
本文中の組織名、所属名、役職名などはすべて取材時のものです。
救命の現場では、1分1秒でも早く胸骨圧迫を開始し継続することが非常に重要です。今回のように、一度電気ショックが不要とされてもまた必要な状態に陥る場合もあります。AEDの指示通りに措置や観察を継続してほしいと思います。また、このような現場には、誰もが遭遇する可能性があります。すぐに救急蘇生を開始できるよう、日頃から職場近くのAED設置場所を把握するように心がけていてほしいと思います。