2022年11月30日

近年、職場やニュースなどで「安全配慮義務」という言葉を耳にする機会が増えてきたと感じる方も多いのではないでしょうか。安全配慮義務とは、従業員の生命や身体等の安全を確保し、安心して働くことができるよう企業や組織に義務付けられたものです。この義務には事故防止や作業管理のみならず、従業員の健康管理も含まれます。

ここでは、安全配慮義務とは何かを確認した上で、安全配慮義務が注目されるようになった背景や企業や組織が配慮すべき措置などを解説します。あわせて、安全配慮義務の観点からAED設置の重要性についても見ていきましょう。

安全配慮義務とは?

 安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは企業や組織に課せられている義務のひとつです。企業は従業員が安心して働けるよう配慮し なければなりません。労働契約法の第5条に次のように規定されています。

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

参照:e-Gov法令検索. 「労働契約法」

安全配慮義務には、作業現場や建築現場といった現場作業などでの安全性だけでなく、メンタル面の安全性も含まれています。企業は従業員がケガなどの事故を未然防止できるよう職場環境を整えることはもちろん、心身ともに健康に働けるよう配慮しなければなりません。

違反した場合は損害賠償請求に応じなくてはならない可能性もあります。

安全配慮義務が注目されるようになった背景

安全配慮義務という概念が生まれたきっかけは陸上自衛隊の車両整備工事事件です。車両整備を行っていた自衛隊員は後進してきたトラックにひかれて亡くなりました。

遺族は使用者である国が安全配慮義務を怠っていたとして訴訟を起こしました。1975年の最高裁の判決において事故の責任は雇用者である国にあると認められ、使用者である国は自衛隊員が危険を回避できるよう、物的・人的環境を整備する義務(安全配慮義務)があることが示されました。

安全配慮義務違反と判断される基準

安全配慮義務違反と判断される基準

安全配慮義務に違反しているかどうかは以下の4つの基準で判断されます。

  • 企業が義務を果たしているか
  • 予見可能性があったか
  • 因果関係があるか
  • 従業員に過失はなかったか


企業が義務を果たしているか

企業や組織が果たすべき安全配慮義務はさまざまです。例えば、従業員の労働時間を管理し、従業員が過労により心身に不調をきたさないように配慮しなければなりません。また、ハラスメント対策を日頃から行い、ハラスメントにより心に傷を負う従業員が出ることを未然に防ぐことも義務です。その他にも、安全装置の設置や健康診断、衛生管理など企業が果たすべき義務に含まれています。

企業や組織が従業員を守るための義務を怠った結果、従業員の身に何かあった場合は企業側による責任と判断されることもあります。

予見可能性があったか

従業員に何か問題が生じた場合、企業側がそれを予見できたかどうかも安全配慮義務を問う上でのポイントです。

例えば、事故の危険性が指摘されていたものの対策を講じることなく、従業員がケガをした場合には企業側に責任が問われます。また、ストレスチェックの結果に問題がある従業員を放置し、重度の精神疾患を患うことになった場合などにも責任が追及されることがあります。

因果関係があるか

従業員に何か問題が生じた場合、従業員の傷病と安全配慮義務に因果関係があるかどうかも判断基準です。

例えば、作業現場で命綱の装着をさせずに作業させ、落下した場合は、因果関係は明らかでしょう。また、心身の不調が懸念される従業員に対して何の対策も講じなかった結果、症状が悪化した場合にも安全配慮義務違反として判断されることもあります。

従業員に過失はなかったか

従業員が勤務中に事故などに遭った際、従業員側の過失についても問われます。

例えば、企業は安全に関する指示を出していたものの従業員が守らなかったケースや、残業が禁止されているにもかかわらず自己判断で勝手に残業していたケースなどです。こうしたケースでは、企業と従業員の双方に過失があるとみなされます。

従業員側にも過失が認められた場合には、企業側の責任は素因減額の観点から軽減されるのが一般的です。また、損害賠償義務が生じた場合、賠償金額が減額されます。

安全配慮義務を守るために企業が考慮すべき措置

安全配慮義務を守るために企業が考慮すべき措置

安全配慮義務を守るために企業や組織が考慮すべき措置は以下の2つに分類できます。

  • 物的措置
  • 人的措置


物的措置

物的措置には作業環境の整備や作業者の装備などが含まれます。特に、工場や建築現場などで配慮すべき措置が多い傾向にあります。

  • 作業環境の整備・改善
  • 安全な機械設備の設置
  • 機械に安全装置の設置
  • 安全な材料の利用
  • 作業者に保護装備を支給

企業側は従業員が業務中に事故に遭わないように、作業現場に危険な箇所がないか常に目を配らなければなりません。事故などの危険性があると少しでも判断できる場合、従業員に危険性があることをすぐに通知し、改善することが求められます。また、現場に設置する機械や作業で用いる材料の安全性は安全配慮義務の基本です。

その他にも、高所での作業や建築現場での作業など、作業者に危険がある場合は保護装備の支給を行わなければなりません

人的措置

人的措置とは人員の配置や教育、疾病発病者に対する治療救済措置配置換えなど、人に関係する措置です。

  • 安全監視員の配置
  • 安全衛生教育の実施
  • 被災・疾病発病者などに対する治療救済措置配置換え

人的措置として、現場を監視する人の配置や事前教育の実施が重要です。 特に、危険性が高い現場には業務に精通している監視員の配置が求められます。また、事故を未然に防ぐために、従業員に対して現場に入る前に教育の機会を提供し、現場での行動や気を付けるべき点などを説明することも大切です。

その他にも、被災の影響を受けた従業員や病気を患った従業員に対して、治療を早急に受けさせることも義務付けられています。

安全配慮義務の観点から注目されるAED設置の重要性

安全配慮義務の観点から注目されるAED設置の重要性

安全配慮義務の観点から注目されるAED設置の重要性は、以下の2つの視点から説明できます。

  • AEDと安全配慮義務の関連性
  • AED設置がもたらす利点


AEDと安全配慮義務の関連性

AEDとは日本語で自動体外式除細動器と呼ばれる医療機器です。ポンプ機能を失った状態の心臓に電気ショックを与えることで、心臓の動きを正常なリズムに戻すための医療機器です。

一般市民によるAEDの使用は2004年7月から認められており、現在では医療機関はもちろん、公共施設、企業、駅、空港、学校、商業施設、集合住宅など、人が多数集まる場所を中心に設置されています。音声ガイドに従って操作できるため、知識のない人であっても操作が可能です。

企業や学校などで、心停止傷病者に対しAEDを使用しなかったため死亡したと考えられる場合、遺族が訴えを起こす事例がありますが、その訴えの多くがAED不使用と死亡の因果関係が明確でないため認められていませんでした。

しかし、2015年に埼玉県内の高校で行われた競歩大会で女子生徒が死亡した事故に対し、2018年さいたま地裁において、「AEDの到着まで約20分かかったことなど初動に不手際があった。学校が適切な救護体制を構築すべき義務を怠った」と学校の過失を認定した学校側の注意義務違反を認めた判決が出ました。死亡との因果関係は認定されなかったものの、安全管理と事故防止の観点から、AED設置への意識が高まってきていると考えられます。

AED設置がもたらす利点

AEDを設置しておくことにより、安全管理と施設価値の向上が期待できます。

AEDは誰でも使用できる医療機器ですので、職場や管理施設に設置しておくことで、心臓突然死から従業員や利用者を救える可能性が高まるでしょう。

総務省消防庁が公表している令和3年版 救急救助の現況*によると、2020年に国内で一般市民が目撃した心原性心肺機能停止傷病者数は25,790 人、このうち一般市民が心肺蘇生を行った数は14,974名でした。

一般市民がAEDを使った電気ショックを実施した人数は1,092人で、そのうち1ヵ月後生存者数は581人(53.2%)、1ヵ月後社会復帰者数はそのうちの479人(43.9%)でした。 一方で、一般市民が心肺蘇生を実施しなかった傷病者10,816人(41.9%)のうち、1ヵ月後生存者数は882人(8.2%)、1ヵ月後社会復帰者数は412人(3.8%)と、生存率も社会復帰率も非常に低いことがわかります。

*出典:総務省消防庁「令和3年版 救急救助の現況

この結果からも、AEDを身近に設置しておくことで、従業員や利用者に突然の心停止が発生した際に、救急車が到着するまでAEDを使用した一次救命処置を迅速に行えば、生存率と社会復帰率を高められるといえます。

参照:旭化成ゾールメディカル「AEDとは

また、AEDが職場に設置してあることで、不測の事態の備えとして従業員は安心感を抱けるでしょう。近年では、地域社会への貢献として、近隣の住民や施設利用者が使用することも考慮し、AEDの設置をすすめる動きも出ています。

AEDの導入事例

AEDの使用によって、突然の心停止から救命されたケースは少なくありません。
ここでは、旭化成ゾールメディカルのAED導入事例のひとつをご紹介します。

電子はかりやPOSシステムなどを開発・製造・販売している企業様では、東京本社、および大阪営業所に計9台のAEDを設置していましたが、AEDの設置に対する考え方を大きく変える出来事がありました。社員のひとりが出張先で突然倒れたのです。同行していた別の社員が近くのガソリンスタンドに助けを求めたところ、そこにAEDがあり、かつ従業員の方が救命講習を受けていたため、迅速なAEDの使用と胸骨圧迫による一次救命処置が行われました。その後社員は無事回復し、後遺症も残りませんでした。いざというときにそこにAEDがあるか。それを使える人がいるか。それが大切な社員の命を左右することを、まざまざと突きつけられたのです。

この事件からすぐに、規模の大小に関わらず全国の拠点にAEDを設置し、かつ全社員がそれを使えるよう教育体制を整えました。
AEDの設置後、社員から「本当に安心できる」という声があがっているそうです。

旭化成ゾールメディカルのWebサイトでは、企業や団体、教育機関にZOLLのAEDが導入された理由や、設置のポイント、ZOLLのAEDを使用した救命事例などを掲載しています。詳しくは以下のページをご覧ください。

参照:旭化成ゾールメディカル「AED導入事例・救命事例

まとめ:企業で働く従業員を守るために

企業や組織には従業員の安全や健康を守るための義務が課されています。企業にとって従業員が事故なく安心して働ける職場環境を提供するのはもちろんのこと、従業員の健康管理も大切なことです。この義務を怠ると安全配慮義務違反とみなされ、責任が追及されることもあります。

安全配慮義務の観点からも、従業員の命を守る方法のひとつとして、AEDの設置が挙げられます。AEDをすぐに使用できる場所に設置しておくことで、従業員に突然の心停止が起こった場合に迅速な対応が可能となり、従業員の大切な命を救える可能性が高まります。

また、職場にAEDが適切に設置されていれば、従業員の心理的な安心にもつながり、職場に対する信頼感も向上するでしょう。

近年では、国内労働人口の減少や高齢化が進み、従業員の安全や健康へのサポートがこれまで以上に重要になっています。その対策の一環として、AEDの設置や増設、従業員に対する救命講習などの教育に取り組む企業が増えています。

AEDをまだ導入していない、部分的にしか導入していない場合は、心臓突然死から大切な従業員の命を守るAEDの設置を検討してみてはいかがでしょうか? 旭化成ゾールメディカルにお気軽にお問い合わせください。