2023年1月17日
「心停止になった人に対してAEDを使う」ことを知っている人は多いでしょう。しかし、心停止とはどのような状態なのか、理解している人は多くないのではないでしょうか。
ここでは、心停止やAEDを使った一次救命処置について解説します。心停止の原因や傾向、症状をはじめ、AEDを使った救命の手順などを理解することで、いざというときに速やかに一次救命処置を行えるようにしましょう。
心停止とは?
心停止とは、心臓の機能が停止してしまった状態のことをいいます。心停止になった人は数秒で意識を失って倒れてしまい、呼吸も止まります。大声で呼びかける、体を揺するといったことをしても反応はありません。突然倒れた人が呼びかけに応じず、呼吸もしていない場合は、心停止している可能性が高いでしょう。
人間は心臓が停止するとすぐに死亡してしまう、と思っている人も多いかもしれませんが、必ずしもそうとは限りません。心停止したあとでも、速やかに一次救命処置を行えば命を救うことが可能です。しかし、何も処置をせずにいると、1分経過するごとに生存率が約10%ずつ低下してしまいます。心停止してから10分間AEDによる除細動が行われないと、生存率は限りなくゼロに近づきます。
心停止には以下の4種類があり、除細動器による電気ショックが有効なものとそうではないものがあります。
心室細動(しんしつさいどう)
心室細動(VF)は、心停止の原因としてもっとも多いものであり、不整脈が極めて重篤な状態です。不整脈とは心拍のリズムが通常と異なり、遅過ぎる、速過ぎる、不規則になる状態を指します。このような心臓の状態は、AEDなどによる除細動(電気ショック)で回復する可能性があります。
心室細動が起こると心臓が小刻みに震えるだけで、全身に血液を流せなくなります。心臓は電気刺激により収縮する器官であり、電気刺激が正しく伝わらないと心室細動が起こります。そのため、けいれんを起こしている心臓に対してAEDで電気ショックを与え、心臓のリズムを正常に戻すことが重要です。
無脈性心室頻拍(むみゃくせいしんしつひんぱく)
無脈性心室頻拍(VT)とは、心拍が速過ぎることにより、全身に血液を正しく流せない状態です。心拍はあるにも関わらず、脈拍がみられないところに特徴があります。心臓は動いているが血液は流れていないため、無脈性心室頻拍になると意識を失って倒れ、呼吸はできません。
無脈性心拍頻拍も心室細動と同じく、心臓に伝わる電気刺激が正常に伝わっていないことで起こります。そのため、AEDによる電気ショックを与える治療法が有効です。心室細動や無脈性心拍頻拍の除細動適応波形は、時間が経過するとともに急速に微弱化するため、AEDによる早急な救命処置が必要とされます。
無脈性電気活動(むみゃくせいでんきかつどう)
無脈性電気活動とは、心電図には波形があるにも関わらず心拍も脈拍も確認できない状態です。無脈性心室頻拍と似ていますが、心電図の波形に違いが見られます。原因として考えられるのが、循環血液量の減少、血液に酸素を取り込めない低酸素血症、心臓の外側の層に水がたまる心タンポナーデなどです。
無脈性電気活動の原因は電気信号ではないため、AEDなどの除細動による治療は有効ではありません。
心静止(しんせいし)
心静止は、心停止のなかでも最も重篤で心室がまったく動かない状態です。心臓が電気刺激に対して反応していないため、電気刺激を与えても効果がみられません。心静止にはAEDの電気ショックが適応しないため、心臓マッサージなどの心肺蘇生法や薬による治療が必要です。
しかし、倒れた人が心停止のどの状態にあるかを見た目で判断することはできません。AEDはパッドを装着すると自動で心電図を測定・解析、除細動が必要かどうかを判断し、指示してくれます。意識を失った人には直ちにAEDを使用し、AEDの指示に従い電気ショックや胸骨圧迫などの一次救命処置を行いましょう。
心停止の原因
心停止の主な原因は、大人と小児とでは違いがあります。大人の場合はほとんど冠動脈疾患などの心疾患が原因です。冠動脈疾患とは、冠動脈の血液の流れに障害が起きることをいいます。冠動脈は、血液内に起きた塊がきっかけとなり起こる場合が多いです。冠動脈疾患が起こると、狭心症や心筋梗塞などを引き起こし、結果として心停止になることがあります。
冠動脈疾患以外の心停止の原因としては、肺塞栓症、外傷による出血多量、代謝障害、血液の異常、心臓に何かしらの問題が起こるといったことが考えられます。
乳児や小児では、心原性の突然の心停止は大人と比較し少ないですが、絶対に起こらないわけではなく、多くは事故や病気で呼吸不全になることが原因です。
呼吸不全が起こる原因として、異物を飲み込んで気道が閉塞される、水に溺れる、煙を吸い込むといった事故や、乳幼児突然死症候群、ぜんそくやけいれんが原因で起こる呼吸困難などがあります。また、大人と同じく外傷による出血多量により心停止が起こることもあります。
心停止の症状や傾向
心停止が起こると、人は意識を失い呼吸すらできなくなります。心停止が起こる直前に何か兆候が起こることはまれです。そのため、突然人が倒れたときは心停止だと思って行動することが重要となります。
前述のとおり、心停止の原因は急性のもの、心筋梗塞、不整脈、肺塞栓など多岐に渡ります。小児の場合は目を離したすきに異物を飲み込んでいる可能性もあるでしょう。
ただし、コレステロール値が高く血液が詰まりやすい人、血管が細い人、喫煙習慣がある人などはリスクが高いため、普段から健康的な生活を心がけましょう。
胸骨圧迫とは
意識や呼吸がない人がいた場合、119番通報と胸骨圧迫、必要に応じてAEDによる除細動を行います。AEDの電気ショックによる治療は心臓のけいれんに対するもので、心臓の動きを促し血液を流すためのものではありません。血液が流れないと脳に酸素を送ることができず、後遺症が残る可能性が高くなります。そのため、胸骨圧迫で心臓の圧迫と解除を繰り返すことで血流を作り、脳に酸素を送りこまなければなりません。
胸骨圧迫とは、左右の胸骨が合わさっている部分(胸骨)の下半分あたりを全身の体重をかけて圧迫することです。両方の手のひらを重ね合わせて胸に当て、腕をまっすぐ垂直にのばしたまま、5cm以上、6cmを超えないように胸が沈むまで押し込みましょう。テンポは1分間に100~120回です。強く、速く、絶え間なく圧迫することが重要です。まれに胸骨が折れてしまうこともありますが、心停止から命を救うことが最優先ですので、躊躇せずに胸骨圧迫を行ってください。
AED(自動体外式除細動器)とは
AEDとは自動体外式除細動器のことで、心停止してしまった人を助けるために必須といえる医療機器です。体の外側から心臓に電気ショックを与えることにより、心臓のけいれんを止めて、心臓が正常な動きを取り戻すことを助ける役目があります。
AEDは、公共施設、商業施設、オフィスビル、駅、学校、病院など、人が多く集まる場所に設置してあることが多いです。突然人が倒れた場合は、AEDをすぐに取りに行くようにしてください。
参考:旭化成ゾールメディカル「AEDとは」
「
AEDはどこにある?知っておきたい設置場所や設置基準のポイント」
AED使用の重要性
心停止が起こったら、救急車の到着を待たずにAEDによる処置を速やかに行うことが極めて重要です。そのまま放置してしまうと死亡、もしくは重篤な障害が残る可能性があるからです。除細動を開始する時間が1分遅くなるたびに、命が助かる可能性が約10%ずつ下がってしまいます。心停止してから10分間AEDによる除細動が行われないと、生存率は限りなくゼロに近づきます。
突然の心停止の原因のほとんどは心室細動であり、AEDによる処置が有効です。心停止発症後には、迅速に胸骨圧迫や人工呼吸などの心肺蘇生法を行い、AEDで電気ショックを与えることが急務となります。迅速にAEDで処置を行えば、心停止が起こっても命が助かる可能性が高くなります。目の前で人が心停止になってしまった場合は、AEDを用いた一次救命処置を速やかに行ってください。
119番通報から救急車が到着するまでに全国平均で8.9分*かかるといわれています。救急車の到着をただ待っているだけでは、助かる命も助からなくなってしまいます。積極的に行動し、AEDと胸骨圧迫による一次救命処置を迅速に行うことが大切です。
また、何もしなければ心停止から3~4分で脳に障害が残る可能性が高くなるため、AEDの到着を待たずに胸骨圧迫などの心肺蘇生法を開始することが重要です。
*参照:総務省消防庁「令和3年版 救急救助の現況」
AEDが到着するまでの一次救命の手順
突然倒れた人がいた場合、まずは肩を優しく叩いて大声で呼びかけ、応答や反応があるのかどうかを確かめます。応答がなければ意識はありません。周囲の人に助けを求め、救急車を呼ぶ人とAEDを持ってくる人を指名します。周囲に誰もいなければ自分で119番通報をします。
AEDが到着する間に呼吸の有無を確かめ、呼吸がない、もしくは判断に迷う場合は、直ちに一次救命処置を開始してください。1分間に100~120回のリズムで胸骨圧迫を行います。できる方は人工呼吸も行いましょう。胸骨圧迫30回に対して、人工呼吸を2回行います。人工呼吸に抵抗がある場合は無理して行わなくても問題ありません。
厚生労働省により、新型コロナウィルス感染症の流行下においては、成人には人工呼吸を行わない、という指針も出ています。それよりも胸骨圧迫をしっかりと行うことが重要です。
参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ(AEDが到着するまで)」
AEDが到着した後の一次救命の手順
AEDが到着したら電源を入れて、AEDの音声ガイダンスどおりに倒れている人の胸に電極パッドを装着します。倒れた人が女性でもためらわず行いましょう。
AEDの種類によっては、小学生~大人用と未就学児用の電極パッドが両方入っている場合があります。倒れた人が未就学児の場合は、未就学児用パッドを使用します。電極パッドを貼る際は、2つの電極パッドが互いに触れ合わないように注意してください。
倒れている人の胸に電極パッドを貼り付けたら、AEDが心電図を測定・解析し除細動の必要性を判断します。AEDが「電気ショックが必要」と判断した場合は、周囲の人に離れるよう指示し、救助者自身も倒れている人に触れていないことを確認してから、AEDの指示に従いショックボタンを押して電気ショックを与えます。
救急隊が到着するまで、AEDの指示に従って胸骨圧迫と心電図測定・解析(必要に応じ電気ショック)を繰り返してください。質の高い胸骨圧迫(5-6cmの深さ、100~120回/分の速さ)が救命率を高めるため、疲れてきたら周囲の人と交代しましょう。交代する際は、胸骨圧迫の中断を最小限にするよう注意してください。
参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ(AEDが到着した後)」
AEDを設置するには
AEDは購入のほか、リースやレンタルでも設置できます。設置先の環境や条件などに応じた製品選定や設置計画、導入方法は、AEDを取り扱う医療機器メーカーや販売代理店へ相談するとよいでしょう。
また、AEDは設置するだけでよいのではなく、日常的な点検と管理が必要です。パッドやバッテリーなどの消耗品の交換時期を確認し、適切に買い替えや交換をしなければなりません。導入検討の際は、こうしたメンテナンスの手間やコストもあらかじめ考慮しましょう。
AEDの普及と使用率が向上すれば、もっと多くの命が助かる
実際に心停止した人に対して、AEDを使用したことがある、胸骨圧迫を行ったことのある人は多くないでしょう。しかし、AEDには初めて救命処置をする人をサポートする機能が備わっているので心配いりません。AEDは電気ショックの必要性を判断するだけでなく、どのような対応が必要かをすべて音声ガイダンスやディスプレイ表示で指示してくれます。AEDが普及し、より多くの人が使用できるようになれば、突然の心停止からもっと多くの命を助けることができます。
AEDの電気ショックが不適応な心停止の場合でも、胸骨圧迫は有効です。心臓がけいれんし血液を流せない状態のときに、電気ショックだけでは血流を作ることができませんが、胸骨圧迫は血流を作り脳に酸素を送り込むことができます。AEDは、1分間に100回程度のメトロノーム音が鳴るため、音に合わせて胸骨圧迫をすれば、JRC蘇生ガイドラインが推奨する100~120回/分のテンポで行うことが可能です。
また、ZOLLのAEDにはZOLLが世界で初めて開発した、胸骨圧迫の質に対してリアルタイムのフィードバックを行う「胸骨圧迫ヘルプ機能*」が搭載されています。救命者が行う胸骨圧迫の深さに応じて、『もっと強く押してください』『胸骨圧迫は有効です』と、音声ガイダンスとディスプレイ表示で知らせるため、初めて一次救命処置を行う人でも質の高い胸骨圧迫ができるようサポートします。
*参考:旭化成ゾールメディカル「世界初!胸骨圧迫ヘルプ機能」
旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。