2024年7月30日公開
日頃、街中でAEDが設置してあるのを見かける人は多いのではないでしょうか?近年ではAEDが駅や空港などの交通機関、スーパーやショッピングモールなどの商業施設、オフィスや工場などの就労施設、学校や役所などの公共施設、体育館やスポーツジムなどの運動施設、マンションなどの集合住宅など、人が集まるさまざまな場所に設置されるようになりました。
日本で一般市民によるAEDの使用が認可されてから、2024年7月で20周年を迎えました。しかし、AEDがどのように開発され、どのように普及してきたのか、その歴史はあまり知られていません。この節目に、AED開発までと日本で普及するまでの歴史を振り返ってみましょう。
AED開発の歴史は1899年にスタート
AEDとはAutomated External Defibrillatorの略で、日本語では「自動体外式除細動器」と呼ばれ、突然の心停止を起こした傷病者に対して、一般市民が除細動(電気ショック)を行うことのできる医療機器です。AEDは次のような歴史を経て開発されるに至りました。
- 1899年:スイスで微量の感電で心室細動が誘発されることを発見
- 1947年:アメリカで最初の除細動器の臨床使用
- 1951年:アメリカで閉胸式除細動器が開発
- 1956年 : アメリカで閉胸式除細動器が初めて臨床使用
- 1965年:アイルランドで携帯型体外式除細動器が開発
- 1978年:アメリカで自動体外式除細動器(AED)が開発
AED誕生のきっかけとなったのは1899年にスイスのジュネーブ大学の生理学者による発見です。この発見は、犬が微量の感電によって異常な脈(心室細動)が生じ、その後さらに大きな電気刺激を与えることで脈が元に戻るということでした。
この発見をもとに、心室細動をはじめとした不整脈に対して、電気を流して脈の正常化を図る除細動器の開発が進んでいきます。1947年にはアメリカのケース・ウェスタンリザーブ大学のクーロド・ベック博士によって、先天性心臓病患者の手術において除細動器が初めて臨床使用されました。
1956年に閉胸式除細動器の臨床使用が成功
1947年に臨床使用された除細動器は、手術で胸を切り開いて直接心臓に電流を流す仕組みでした。そこから4 年後の1951年にアメリカで胸を切り開かなくても使用できる閉胸式除細動器が開発されます。1956年にアメリカでポール・ゾール博士が、臨床での閉胸式除細動器を用いた除細動を成功させました。ポール・ゾール博士は、1980年に創設者のひとりとして救命救急医療(クリティカルケア)機器メーカーのZOLL Medical Corporationを創業します。
1978年にAEDが開発される
ポール・ゾール博士の閉胸式除細動器を用いた除細動の臨床使用成功の15年後の1965年には、アイルランドのフランク・パントリッジ博士によって携帯型の除細動器が開発されました。ただし、携帯型といっても重さは約70kgもあったとされており、現代のAEDとはまだかなりかけ離れたものでした。
1960年代後半以降には、ロシアで二相性波形の除細動器の開発が始まりました。これによって、従来の単相性の除細動器よりも少ないエネルギーで脈を正常化できるようになり、火傷などの危険性の低下や除細動器の小型化につながりました。
その後、1978年にアメリカでAEDが誕生したことを契機に、今日のように医学的知識がない一般市民であってもAEDを使用し除細動を行えるようになりました。
AEDが日本で普及するまでの歴史
アメリカでAEDが誕生してから14年後、1992年に米国心臓協会(AHA)はガイドラインで突然の心停止に対する救命率向上には、現場での早期除細動(電気ショック)が重要であると明示しました。さらに2000年に国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が発表した蘇生ガイドラインでは、一般市民によるAED使用が一次救命処置として位置づけられ、その有効性が明記されました。
また、同年連邦法により連邦施設へのAEDの設置、地方自治体がAEDを購入し講習を開催するための費用の助成金の拠出と普及が義務付けられました。
2001年には連邦航空局(FAA)が、2005年までにアメリカ国籍のすべての国内便・国際便にAEDを設置することを義務付けました。
このような流れを受けて、日本でも次のような過程を経てAEDが普及していきます。
- 2000年:市民公開講座で一般市民のAED使用により救命率を改善できる可能性が初めて紹介される
- 2001年:日本航空の国際線旅客機にAEDが搭載される
- 2002年:日本循環器学会が、医師以外の人によるAED使用の推進を提唱
- 2003年:救急救命士が医師から直接の指示をもらわず除細動が行えるようになる
- 2004年:厚生労働省が、一般市民によるAEDの使用を認可
2001年に国際線旅客機にAEDが初めて搭載される
日本においてAEDの必要性が議論されはじめたのは、2000年に開催された慶応義塾大学心臓病先進治療学講座主催の市民講座とされています。同講座において、一般市民がAEDを使用することで救命率の改善が期待できることが初めて紹介されました。
それまでも1991年の救急救命士法改正によって、救急救命士による除細動器の使用は認められていましたが、医師に直接指示を仰ぐ必要がありました。その後、AEDの必要についての議論が進み、2001年には日本航空の国際線旅客機にAEDが設置されています。
しかし当時は、客室乗務員はAEDを使用できるのに対して、救急救命士以外の一般の救急隊員はAEDを使用できないという、ねじれ現象が起きていました。
2004年に一般市民によるAED使用が許可される
2001年に国際線旅客機へAEDが設置されて以降、2002年11月に高円宮憲仁さまがスカッシュの練習中に心室細動に襲われ逝去したことによるAEDの普及を求める社会の機運の高まりや、AED解禁を求める提言、『除細動に関する構造改革特区提案』などにより段階的な規制緩和を経て、2004年に一般市民のAED使用が認可されました。
AEDの普及と使用によって救われた命
アメリカと比較し、一般市民によるAEDの使用認可は遅れた日本ですが、一般市民を含む民間の理解が進むにつれAED の普及も順調に進み、街のさまざまな場所でAEDを見かけるようになりました。現在では、日本国内に推計約67万台のAED が設置されていると言われ、世界でも有数のAED先進国と言われています。
AED の普及にともない、一般市民によるAED の使用で救命された人数も年々増加の一途をたどり、2019年には703人もの尊い命が救われました。新型コロナウイルス感染症流行の影響で、2020年以降その数が一時的に減少しましたが、一般市民によるAEDの使用が認可されて20年間で、少なくとも累計8,000人が救命されています。
より多くの命を救うための課題とAED使用の重要性
AEDの設置が進み、一般市民によるAED の使用で多くの尊い命が救われてきた一方で、課題も指摘されています。AEDの使用率の低さはそのひとつです。倒れるところを目撃された心停止傷病者のうち、AEDが使用されたケースはわずか4%*に過ぎません。AEDが見つからなかった、AEDの使用が必要だと思わなかった、AEDの使い方がわからなかった、AEDを使うことに不安を感じた、などさまざまな要因が考えられます。
その解決には、AEDの設置台数の増加に加え、AEDをいつでも誰でも使える・わかりやすい場所への適正配置の推進や、AEDを使った心肺蘇生法教育の強化など、官民が一体となり環境整備と知識・技術の普及に取り組む必要があるでしょう。
近年、救急隊の出場件数の急増が問題となっています。年々進む人口の高齢化に加え、新型コロナウイルス感染症の流行や、気候変動による熱中症患者の急増などで、全国各地で救急隊のひっ迫した活動状況が報告されており、市民へも正しい救急車の利用のお願いが出されています。119番通報から現場に救急車が到着するまでの時間も年々伸長しており、総務省消防庁の「令和5年版 救急救助の現況」によると全国平均10.3分を要します。
突然の心停止を起こした場合、何もせずにいると約3分で脳機能に障害が起こり、生存率は毎分約10%ずつ低下、10分を経過すると救命の可能性がほとんどなくなってしまいます。救急車の到着を待っているだけでは、救える命も救えなくなってしまいます。突然の心停止から救命するには、その場に居合わせた人によるAEDの使用と一次救命処置が不可欠なのです。
*参照:総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」
参考:旭化成ゾールメディカル「AED講習はどこで受けられる?一次救命処置を学ぶ重要性と講習の内容・受講方法とは」
まとめ
先人達の努力と尽力により、AEDが開発され普及が進み、一般市民の誰もがAEDを使って突然の心停止から命を救うことができるようになりました。しかし、日本においてはその使用率の低さが課題となっています。ひとりでも多くの命を救うためには、ひとりでも多くの人がいざというときにAEDを使った一次救命処置をできるようになることが望まれます。最近では、救助者がショックボタンを押す必要がないオートショックAEDの導入が始まり、AEDの設置者にとっても新たな選択肢が生まれています。
旭化成ゾールメディカルでは、より多くの人がより多くの命を助けられるように、AEDを使用した一次救命処置について知り、必要な時に実践できるよう、AED20周年を契機にさらなる情報発信と啓発活動を推進してまいります。
当社AEDサイトでは、「AEDについての基礎知識」や「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての知識が得られる「AEDコラム」や、よくある疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。