2025年2月7日更新 | 2022年7月6日公開

AEDは突然心停止してしまった人に、電気ショックを与えて心臓を正常なリズムに戻すための医療機器です。医療従事者以外の一般市民も使えることから、さまざまな場所に設置されています。

AEDを使用する場合は基本的に上半身の衣服を脱がせます。しかし、女性に対してAEDを使用する場合、衣服を脱がせて救命処置を行なっても問題にならないのか気になる方も多いようです。ここでは、女性にAEDを使用する際に知っておきたいこと、役に立つポイントについて解説します。

女性へのAED使用を躊躇せず、命を救う行動を

女性へのAED使用を躊躇せず、命を救う行動を

女性の心停止傷病者に対するAEDの使用率が、男性の傷病者と比較し低いことが社会的な課題となっています。突然の心停止から命を救うには迅速なAEDの使用が必要不可欠なため、AEDの使用の有無は救命率に大きな影響を与えます。こうした現状の背景と問題点について解説します。

参照:時事メディカル「心肺蘇生術とAEDで救命率向上~女性への使用ためらわないで(熊本大学大学院 辻田賢一教授ら)~」

女性に対する救命処置・AED使用と意識の現状

全国の学校構内で心停止した生徒について、救急隊の到着前にAEDのパッドが装着されたかどうかを調査した結果、中学生までは男女間に有意差はありませんでしたが、高校生では女子生徒へのAEDの使用が約30ポイントも低下したという京都大学の研究グループの発表が報道でも取り上げられたことを記憶されている方もいらっしゃるかもしれません。

弊社が2023年に実施した「一次救命処置およびAED使用に関する意識調査」においても、女性に対する救命処置への抵抗感を示す傾向が高いことがわかりました。救命に関する知識を十分に持っていると仮定し、目の前で倒れている人が女性だった場合、胸骨圧迫(心臓マッサージ)やAEDの使用などの救命処置が「できると思う」と回答した人が32.8%いた一方、「救命処置をしたいが抵抗がある」は38.1%、「できない、したくない」は15.9%となりました。

「抵抗がある」「できない、したくない」「わからない」と回答した人の主な理由は、「衣服を脱がせたり、肌に触れることに抵抗がある」、「セクシャルハラスメントで訴えられないか心配」「女性に対する救命処置の方法を知らない」など、心理的な抵抗感や法的責任を問われるのではという不安が、女性に対する救命処置への主な阻害要因となっていました。

参照:旭化成ゾールメディカル「【2023年度版】一次救命処置およびAED使用に関する意識調査

一般市民による救命処置は法的責任を問われない

SNSや一部のインターネットメディア上で、AEDを使って救命処置を行った一般市民が傷病者やその家族に訴えられたというような噂が流布されているのを目にしたことがあるかもしれません。しかし、こうした情報のソースや真偽は不明であり、実際の法的解釈と異なっていますので注意が必要です。

厚生労働省のホームページ上で公表されている「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」では、救命活動に関わる行為は、損害賠償責任を問われないと記載されています。

また、「救急蘇生法の指針2020(市民用)」の『救命処置における倫理と法律』では、その根拠を以下のように挙げています。民法第698条の「緊急事務管理」の規定により、悪意または重大な過失がない限り善意の救助者が傷病者などから損害賠償責任を問われることはないと考えられています。刑法第37条の「緊急避難」の規定では、害が生じても、避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰しないとされています。一般市民が業務の一環ではなく、善意に基づき救命処置を実施した場合には、民事上・刑事上の責任を問われることはないと考えられています。

人の生死が左右される緊迫した場面において、AEDを使用するために衣服を脱がすのは必要な行動です。命を救うための善意の行動がセクシャルハラスメントなどの罪に問われることはありません。AEDを使用するのは、心臓が止まっている可能性のある状態、すなわち人の命が危険に瀕している状態です。女性だからといって躊躇せず、積極的に救命活動を行うようにしましょう。

参照:厚生労働省「非医療従事者による自動体外式除細動器(AED)の使用のあり方検討会報告書」
    日本救急医療財団「救急蘇生法の指針2020(市民用)」

女性にAEDを使用する際に知っておくと役に立つこと

人の生死を左右するほど緊迫した場面において性別は関係ありません。女性の命を救うための行動がセクシャルハラスメントとして罪に問われないことは前述したとおりです。しかし、命が関わる場合であっても公共の場でとっさに衣類を脱がせていいものか判断に迷うことはあるでしょう。

以下は女性にAEDを使用する際、簡単にできる配慮です。これらを知っておけばいざという時に役立つため、ぜひ覚えておきましょう。

大声で人を呼び囲んでもらう

大声で周囲の人を呼びましょう。人垣を作って傷病者を囲んでもらうことで、女性の傷病者の体を外から見えなくすることができます。

そもそもひとりで救急車の手配をし、胸骨圧迫などの心肺蘇生を行い、AEDを操作するのは非常に困難です。一次救命処置を行う際は、傷病者の性別に関わらず、必ず周囲の助けを呼ぶようにしてください。

パッドを貼った後は上着やタオルをかけても構わない

女性の傷病者への配慮として、パッドを貼った後に上半身に上着やタオルなどをかけてあげることも一案です。傷病者にパッドを貼ってショックボタンを押すと通電するリスクがあるため、AEDの音声ガイダンスに従い、その間は傷病者に触れてはいけません。衣類やタオルをかける場合は、必ずショックボタンを押す前に行ってください。

救命テントを使用する

救命テントを使用する

場所によってはAEDと一緒に救命テントが設置されている場合があります。

救命テントとは傷病者のプライバシーを守るためのテントで、ワンタッチで簡単に設営可能です。テントの側面には「AED」や「救命中」の文字がプリントされているため、周囲に救命活動中であることを知らせることができ、他の人の助けを得やすくなることもあり効果的です。

救命テントは傷病者の衣服を脱衣させる前に使用が可能です。体を隠して救命活動を行えるため、覚えておくとよいでしょう。

参照:旭化成ゾールメディカル「旭化成ゾールメディカルオリジナル「救命テント」を新発売しました

まずは救命処置を最優先に行う

まずは救命処置を最優先に行う

女性に対して衣服を脱衣させても問題がないのか、セクシャルハラスメントとして訴えられるのではないかという誤解や不安から、女性の傷病者に対しAEDを使うことに躊躇を覚える方が少なくありません。

AEDの使用に伴う脱衣は一次救命処置に必要な行為であり、罪に問われることはありません。女性の傷病者へのプライバシー配慮として、人垣をつくって傷病者を見えないようにする、パッドを貼ったあとでタオルや上着などを上半身にかける、救命テントを使用するなどの工夫も可能です。

もっとも大切なことは、傷病者の命を救うことです。問題になるのではないかという不安のために女性の傷病者に対して救命処置を行わず、尊い命が失われることがあってはなりません。傷病者を見かけたら、性別に関わらずまずは救命処置を最優先しましょう。勇気をもって迅速に行動することが、目の前の命を救う大きな第一歩になるのです。

旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDについての基礎知識」や「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての知識が得られる「AEDコラム」や、よくある疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。