2022年12月15日
AEDを職場や管理施設に設置することで、従業員や利用者に突然の心停止が起きた場合、AEDを使用した一次救命処置により命を救える確率が高まります。AEDは職場や管理施設の従業員はもちろん、利用者や近隣の人の利用も想定される、なかば社会的なインフラと呼んでも過言ではありません。
AEDの設置は、従業員や利用者はもちろん、その家族や地域住民へも安心感を与えられるという利点もあります。
とはいえ、AEDの導入には初期費用だけではなく、パッドやバッテリーなど消耗品のランニングコストがかかることが一般的なため、費用を理由に導入に踏み切れないケースも少なくありません。AEDを導入したくてもコストが課題となり難しい場合は、補助金・助成金の利用を検討するのもよい方法です。
ここでは、AEDの導入に対する補助金や助成金について解説していきます。AED設置に対して補助金・助成金を設けている団体に加えて、補助金・助成金の実施例などについても見ていきましょう。
※本記事は、2022年12月1日現在の公開情報をもとに作成しています。最新情報や詳細については、各自ご確認をお願いいたします。
AEDの補助金・助成金とは
国によるAEDの補助金は現時点(2022年12月)においてありませんが、AEDの普及を目的に補助金・助成金制度を設けている都道府県や市区町村などの地方自治体は少なくありません。地方自治体以外でも、AED設置費用に対する補助や助成を行っている民間の団体もあります。
AEDの補助金・助成金は種類によって内容が異なりますが、以下のような特徴が挙げられます。
- 初期費用をサポートする助成金・補助金が多い
- 補助金の給付額は初期費用の2分の1がほとんど
ただし、補助の対象となるのはAEDの購入に対してであり、レンタルの場合は対象にならないことが多いので注意してください。
また、補助金ではありませんが、イベント開催時などの一時的利用であれば、自治体から無償で貸してもらえることもあります。
補助金・助成金の金額
AEDの補助金・助成金は導入にかかる費用全額を負担するものは少なく、購入費用の何割か、もしくは上限金額が定められているものがほとんどです。
例えば佐賀県嬉野市は購入費用の2分の1以内(限度額 15万5000円)としています。また、東京都大田区は消費税の確定申告義務がある団体とない団体で給付額が異なります。消費税の確定申告義務がある団体は消費税を除いた費用の2分の1(上限32万3千円)、消費税の確定申告義務のない団体は消費税を含めた費用の2分の1(上限35万6千円)です。
補助金・助成金を設けている団体
AEDの補助金・助成金は地方自治体が主に支給しています。ただし全ての自治体において助成金を給付しているわけではないため、所在地の自治体などがAEDの補助金・助成金制度を設けているか確認してみましょう。
また、自治体の他には、財団法人中小企業災害補償共済福祉財団(通称 あんしん財団)、独立行政法人日本スポーツ振興センター、財団法人自治総合センターなどの民間財団や、業界団体などでも補助金を給付しているケースがあります。
補助金・助成金の対象者
AEDの補助金・助成金の大半は、個人ではなく事業所や組織などの団体に対して支給されるものです。AEDの補助金・助成金の対象として、主に以下のような団体が挙げられます。
- 自治会
- 自主防災組織
- 商店街
- 保育園・幼稚園
- スポーツ団体
- 老人クラブ
AEDは、多くの人が集まり活動する場所に設置することが推奨されています。そうしたことからも、補助金・助成金の対象者は、個人ではなく団体が一般的です。
補助金・助成金の対象条件
AEDの補助金・助成金の対象になる条件は、地方自治体によってさまざまです。AEDの補助金・助成金の対象には、主に以下のような条件が設けられていることが多いです。
- AEDはリースではなく、購入する場合に限る
- 建物の管理者、あるいは所有者にAED設置について許可を得ている
- 施設の関係者全員にAEDの設置場所を周知し、設置されていることが分かるように表示を行う
- AEDの使用方法や救命処置について講習を受けた人がAEDを使える状況が保たれている
- AEDの使用方法などの講習会に積極的に参加する
- AEDが正常に動作するか毎日点検を行う
- 自社や管理施設の従業員に限らず、必要な人にAEDを提供する
- 自治体のホームページ、広報などにAEDの所在を公表することに同意する
- 24時間営業施設のみ屋内に設置でき、それ以外の施設は屋外に設置する
地方自治体が規定する条件はひとつでなく、複数の条件が設けられていることがほとんどです。提示されている条件は全て満たす必要があることが大半であり、条件を満たしていない場合は助成の対象にはなりません。
また条件にAEDと明記されていなくても、防災設備や地域振興を目的とした設備を対象とした補助金・助成金の場合、AEDの購入も対象になることが多いので確認してみましょう。
補助金・助成金の実施例
ここでは、補助金・助成金を実施している自治体と民間団体の例をご紹介します。
- 東京都大田区
- 滋賀県草津市
- あんしん財団
- 丸紅基金
- 静岡県共同募金会(赤い羽根共同募金)
東京都大田区
東京都大田区は地域の安全と安心の向上を目指し、民間団体などがAEDの購入を行う際に区内の施設で24時間誰もが利用できることを条件に、AED設置費用の補助を実施しています。
補助金の対象は、以下のとおりです。
- AEDを購入、および設置する初期費用
- 消耗品交換費用(AED設置から5年を限度)、バッテリパック、除細動パッド(1回の申請で2組以内)
補助金額は、以下の表に示すとおりです。
対象者 | 初期費用 | バッテリパック | 除細動パッド |
消費税の確定申告義務がある団体 | 消費税を除いた 費用の2分の1 (上限32万3千円) |
消費税を除いた 費用の2分の1 (上限2万円) |
消費税を除いた 費用の2分の1 (上限1万円) |
消費税の確定申告義務がない団体 (町会、自治会など) |
消費税を含めた 費用の2分の1 (上限35万6千円) |
消費税を含めた 費用の2分の1 (上限2万円) |
消費税を含めた 費用の2分の1 (上限1万円) |
ただし、AEDをリースして導入する際やAEDの修理代などは補助の対象にはなりません。
また補助を受けるためには団体に属する者の中に救命講習などの修了者がいる、AEDを屋外に設置する、AEDの点検を毎日行うなどといった条件を全てクリアする必要があります。
滋賀県草津市
滋賀県草津市は自主防災組織の補助を地域住民の自主的な防災活動の促進を目標に行っています。自主防災組織の補助はAEDに特化した補助金ではありませんが、防災の観点からAEDの購入も対象です。
備品の購入では補助限度額10万円(一部対象外)、補助率3分の1とされています。
あんしん財団
あんしん財団は、職場の環境改善のための9つの補助金を給付しています。「9.AED等職場の救急対策用設備設置に対する補助金」は、従業員の急病などに備え、救急救命に必要な設備のうちAED、担架、人工呼吸用マスクを購入した場合に購入金額の一部を補助してもらえます。
ただし、AEDの補助金・助成金を受けるには条件があります。AEDは薬事法上の医療機器(非医療従事者向け自動除細動器)として認可されているものに限定され、事務所や営業所、工場などといった事業所の施設に設置するものに限るとされています。
出典:あんしん財団「職場の環境改善のための補助金制度について」
丸紅基金
丸紅基金は総合商社丸紅株式会社、および丸紅グループの役員、社員、OB・OG、さらには他関係者の寄付によって成り立っている基金です。
全国の福祉団体や非営利の法人に対して社会福祉助成を実施しており、設備や機器、車両、研究活動、教育事業などの支援を実施しています。丸紅基金の募集要項にはAEDに関する記載はありませんが、AEDの購入も社会福祉に含まれるため対象です。
年間の助成金総額は1億円が目処とされており、約60件の助成を行っています。また1件の助成金額は200万円を上限とします。
静岡県共同募金会(赤い羽根共同募金)
赤い羽根共同募金会は静岡県内において社会福祉を目的に事業を行っている民間の非営利団体、および社会福祉施設が対象です。
この助成金はAEDに特化したものではないですが、福祉活動の支援などの観点からAEDの購入も助成金の使い道として認められています。
助成の対象となるのは静岡県内の福祉事業団体です。認可(指定)施設に対する助成率は75%、助成額の上限は300万円、認可外施設に対して助成率は90%以内、助成額の上限は200万円となっています。
一時的な貸出なら無料の場合も
イベント開催時など人が多く集まるときにだけ、AEDを設置したいケースもあるでしょう。AEDを一時的に利用したい場合にはレンタルが一般的ですが、自治体によってはAEDを無料で貸し出している場合もあります。
ただしAEDの数は限られているため、利用したい日にAEDを確保できるか保証されるわけではありません。
AEDをレンタルしたい場合は、予定が決まった時点で自治体に確認するとよいでしょう。
まとめ
AEDを設置しておくことで、従業員、施設利用者や近隣の人々の命を心臓突然死から守れる可能性が高まります。
AEDの導入にはコストがかかるため、予算の都合で導入が難しいという場合は、AEDの補助金や助成金を活用することができれば、AEDの設置が可能になるかもしれません。
また、補助金を活用すれば複数台の導入も実現しやすくなります。突然の心停止から命を救うためには、AEDの適正配置*と迅速な一次救命処置が必要です。より多くのAEDが設置されていれば、より多くの命を救える可能性が高まります。
職場や管理施設の安全性を向上するためのAED設置に、AEDの補助金や助成金の活用を検討してみてはいかがでしょうか?
*参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?効果的・効率的なAED設置とは」