2024年8月9日公開

AED(自動体外式除細動器)は突然の心停止から命を救うための医療機器です。身近な場所にAEDが設置してあるのを見かける人は多いのではないでしょうか?AEDは駅や空港などの交通機関、スーパーやショッピングモールなどの商業施設、オフィスや工場などの就労施設、学校や役所などの公共施設、体育館やスポーツジムなどの運動施設など、人が集まるさまざまな公共施設や民間施設などに設置されていますが、実は個人が家庭に設置することも可能です。

ここでは、自宅へのAED設置を検討した方がよい具体的なケースやAEDの導入方法などについて解説します。

家庭用にAEDを自宅に設置することはできる

家庭用にAEDを自宅に設置することはできる

AEDは、自宅にも設置が可能です。

一般的なAEDは医療従事者でなくても、誰でも簡単に使用できるように設計されています。そのため、特に「家庭用AED」と銘打った製品でなくても、非医療従事者向けのAEDであれば自宅へ設置し使用することができます。AEDは医療知識がない一般市民でも適切に使用できるよう、救命の手順やAEDの使い方を音声ガイダンスやディスプレイ表示で指示してくれます。また、AEDの設置には特別な許可や条件を必要としないため、誰でも個人の住宅に設置可能です。

一般家庭にAEDを設置するのは難しいことではなく、自宅で起こる突然の心停止に備えるための有効な手段となります。

自宅にAEDを設置する利点

自宅にAEDを設置する利点

心臓病を患っている方や高齢の家族がいる家庭では、AEDを設置することで、緊急時に命を救える可能性が大幅に高まります。

心臓病の場合、医師から自宅にAEDを設置しておくことを勧められるようなケースもあるでしょう。特に心停止のリスクが高い方がいる家庭では、もしもの時に同居している家族による迅速な対応が求められるため、AEDの設置が推奨されます。

以下では、自宅にAEDを設置する利点について詳しく解説します。



心停止直後に一次救命処置を行うことで救命率が高まる

心肺停止から1分以内に救命処置が行われた場合、95%が救命されると言われています。しかし、心臓のポンプ機能に異常をきたし血流が止まった状態が3~5分続くと脳に回復不能な障害が残り、何もせずに8分経過すると救命の可能性は極めて低くなるといわれています。そのため心停止が発生した場合は、心停止から5分以内に除細動(AEDによる電気ショック)を行うことが望ましいです。

総務省消防庁の「令和5年版 救命救助の現況」によると、119番通報から救急車が現場に到着するまでの全国平均は約10.3分*です。また国内の別の研究では、一般市民が心停止を目撃してから119番通報(心停止を認識し行動する)までに、2~3分の時間がかかるという報告がされています**。つまり、心停止した場合に何もせず救急車の到着を待っているだけでは、救命の可能性がほとんどなくなってしまうのです。総務省消防庁の同データでは、心停止後に救急隊が到着するまで何の応急手当も実施されない場合、1カ月後の生存者の割合はわずか6.6%でした。

総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」

AHAガイドライン2005、総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」の情報をもとに作図

心停止が起きたら、そばに居合わせた人によるAED使用を含む迅速な一次救命処置が生死を分ける鍵となります。一次救命処置とは、気道確保、胸骨圧迫(心臓マッサージ)、人工呼吸、AEDの使用といった一連の心肺蘇生法の総称です。

*参照:総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」
**参照:Iwami T, Nichol G, Hiraide A, Hayashi Y, Nishiuchi T, Kajino K, Morita H, Yukioka H, Ikeuchi H, Sugimoto H, Nonogi H, Kawamura T. Continuous improvements in "chain of survival" increased survival after out-of-hospital cardiac arrests: a large-scale population-based study. Circulation 2009



心停止の約7割が自宅で起きている

日本では、平均して毎日約220人が心臓突然死で亡くなっています。上述の総務省消防庁のデータによると、2022年に救急搬送された心停止傷病者のうち、住宅で発生したケースは66.8%でした。このことから分かるのは、心停止した人の7割近くが自宅にいたということです。

心停止の際にAEDを使用すると、AEDを使用せずに心肺蘇生をした場合と比べて1カ月後の生存者数が約3.9倍、1か月後の社会復帰者数は約4.8倍になります。しかし、一般市民に目撃された心肺機能停止傷病者のうち、周囲の人が心肺蘇生を行ったのは59.2%で、そのうちAEDが使用されたのはわずか4.2%でした。

心停止が起きた場合、「AEDを使用しなければ」ということは分かっていても、AEDの設置場所が分からなかったり、自宅から設置場所までの距離が遠かったりすることは少なくないでしょう。住宅街にAEDが設置してあるケースは決して多くはなく、自宅での心停止時に迅速な対応が取れないという事態を招いている可能性があります。

自宅にAEDがあれば、突然の心停止に対し迅速な一次救命処置を行うことができ、大切な家族の命を守ることにつながります。

参照:総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」



自宅にAEDを設置した方が良いケース

自宅にAEDを設置した方が良いケース

家庭内に突然死のリスクが高い人がいる場合、自宅へのAEDの設置を検討するのがよいでしょう。突然死のハイリスク者とされているのは、若年者の肥大型心筋症やQT延長症候群、運動誘発性多形心室頻拍などがある人です。

ハイリスク者の中には、突然死のリスクがあるにもかかわらず、その他の要因からICD(植え込み型除細動器)の植え込みが行われない場合があります。このようなケースでは、医師から自宅へのAED設置を指示・処方されることもあります。

ひとり暮らしのハイリスク者の場合、AEDがあっても本人の力では救命処置が行えません。よって自宅にAEDを設置する場合は、同居する家族による使用が前提となります。同居人に使用法を学んでもらう必要もあるでしょう。

また、医師の指示・処方に基づきAEDを購入または賃借した場合、購入費用・賃借料は、所得税法第73条《医療費控除》第1項に規定する医療費控除の対象となります。医療控除対象の詳細は、国税庁のホームページをご確認ください。

康リスク者以外にも、近隣にAEDが設置されていない、救急医療へのアクセスが悪い地域にお住まいの方も、自宅にAEDを設置しておくことで心臓突然死から命を救える可能性を高めることができます。

参照:国税庁「心臓病患者が医師の指示・処方に基づき「自動体外式除細動器(AED)」の購入又は賃借をした場合の当該対価に係る医療費控除の取扱いについて」



自宅にAEDを設置する方法

自宅にAEDを設置する方法には、一般的に購入とレンタルの2つの選択肢があります。

購入の場合、長期的に見れば総費用が安くなりますが、初期費用が大きくなります。また、購入したAEDの日常点検やメンテナンス、消耗品の交換などは、設置した個人や家族が責任を持って行う必要があります。定期的な点検やバッテリー、除細動パッドの期限管理・購入・交換などが必須となります。

一方、AEDのレンタルは一般的に警備会社や医療機器レンタル会社などが提供しており、大きな初期費用がない月額定額制のケースが多いです。レンタル契約には消耗品やメンテナンスなどが含まれることが多く、追加費用が発生しにくいのも特徴です。ただし長期的な利用となると、月額費用が積み重なり、総費用が高くなる可能性があります。レンタル会社によっては個人契約が難しい場合もあるので、詳細は個別に確認が必要です。

集合住宅や町内会・自治会での設置を進めるのも効果的

集合住宅や町内会・自治会での設置を進めるのも効果的

個々の家庭でAEDを設置するのは負担が大きいという場合は、集合住宅の管理組合や町内会・自治会単位で設置を進めるのもひとつの方法です。

AEDの適正配置に関するガイドラインでは、住宅地域では100m間隔でAEDを設置するよう推奨されています。またAEDの配置にあたって考慮すべきこととして、以下の6つが挙げられています。

  1. 心停止から5分以内に電気ショックが可能な配置
  2. 分かりやすい場所
  3. 誰もがアクセスできる
  4. 心停止のリスクがある場所の近くへの配置
  5. AED配置場所の周知
  6. 壊れにくく管理しやすい環境への配置

集合住宅や町内会・自治会でAEDを導入する際は、ガイドラインに基づいた場所にAEDを設置しましょう。自治会で導入する場合は、自主防災の一環としてAEDの補助金を得られる可能性もあります。

参照:一般財団法人日本救急医療財団「AEDの適正配置に関するガイドライン」
参考:旭化成ゾールメディカル「マンション管理組合や町内会・自治会におけるAED設置のポイントとは?



家庭用AEDの設置で、自宅での心臓突然死から命を守ろう

家庭にAEDを設置しておくと、自宅での突然の心停止発生時に、家族による迅速な対応が可能となり、救命の可能性が高まります。特に心臓病を患っている方や高齢の家族がいる場合は、自宅へのAEDの設置がより重要です。

AEDの設置方法は、一般的に総費用が安い「購入」と初期費用が少ない「レンタル」の2つの選択肢があります。個人での設置が難しい場合は、集合住宅や町内会・自治会など、地域単位でAEDを設置するのもおすすめです。自治会での導入には補助金の利用が可能な場合もありますので、お住まいの自治体などに確認するとよいでしょう。

AEDの導入・設置に関するご相談は、お問い合わせフォーム、またはAEDコールセンターへお気軽にお問い合わせください。
旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDについての基礎知識」や「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての知識が得られる「AEDコラム」や、よくある疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。