2024年11月21日公開

突然の心停止が起きた際に命を救うAED(自動体外式除細動器)は、多数の人が集まる介護施設・福祉施設(高齢者・障がい者・児童向けの施設など)に設置するのが望ましい医療機器です。介護施設・福祉施設におけるAEDのニーズは高いものの、一方で設置・管理コストなどが課題になるケースもあるようです。また適切な設置場所の選定や職員の訓練、定期点検なども必要です。

ここでは、介護施設・福祉施設がAEDを設置する際のポイントや、コスト面への対策などを紹介します。

介護施設・福祉施設におけるAED設置の現状と取り組み

介護施設・福祉施設におけるAED設置の現状と取り組み

現在、日本でAEDの設置は義務化されておらず、介護施設・福祉施設を含めて、AEDを設置する義務はありません。ただし、一般財団法人日本救急医療財団が発行している「AED の適正配置に関するガイドライン 」では、AED設置が推奨される施設として高齢者のための介護・福祉施設を挙げています。50人以上の高齢者施設では、実際に一定以上の頻度で心停止が発生しているためです。

参照:一般財団法人日本救急医療財団「AED の適正配置に関するガイドライン」

また、ケアマネージャー向けWebサイト「ケアマネジメント・オンライン」の調査によると、2017年時点では高齢者のための介護施設(通所介護事業所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設)の60%でAEDを導入済みでした。

参照:ケアマネジメント・オンライン「介護福祉施設のAED設置に関する調査結果」

また全国の介護施設や福祉施設では、消防の協力を受けながら、AEDの使用方法や一次救命処置の学習・講習が行われているケースも多いようです。

講習は主に職員向けですが、場合によっては入居者の受講も可能です。市区町村や消防などでは、一次救命処置の講習を受け付けています。例えば東京都では日本認知症グループホーム協会と東京消防庁、東京防災救急協会が協力して開発した「小規模福祉施設防火実務講習」や救命講習を提供しています。



なぜ介護施設・福祉施設にAEDが必要なのか?

AEDの設置に法的義務はないものの、介護施設や福祉施設にAEDを設置する意義は大きいでしょう。突然の心停止から利用者と職員の命を守るのはもちろんのこと、職員の意識向上と安心感の醸成、利用者と家族の信頼獲得などさまざまな理由が挙げられます。

突然心停止状態になった際、救命のために重要になるのが心停止からの経過時間です。心停止になった場合、1分ごとに7〜10%ずつ助かる可能性が低下していきます。突然の心停止の多くは、心臓から血液を送り出す心室が不規則に震えるけいれん(細動)を起こし、血液を送れなくなる状態に陥る心室細動が原因です。心室細動の救命処置には、胸骨圧迫だけでは不十分で、AEDによる電気ショック(除細動)が有効な治療法とされます。

参考:旭化成ゾールメディカル「AED(自動体外式除細動器)についての基礎知識
              「心臓突然死の主な原因のひとつである不整脈、「心室細動」とは?

2022年の総務省消防庁調査によると、心停止が起きた際に、その場で心肺蘇生とAEDによる電気ショックを行った場合、50.3%の人が助かっています(1か月後生存率)。しかし119番通報のみの場合は6.6%、心肺蘇生を行ってもAEDを使用しなかった場合は9.9%です。心停止時のAED使用が、救命率を大きく向上させることが分かります。

参照:総務省消防庁「令和5年版 救急救助の現況」



介護施設・福祉施設にAEDを設置するときのポイント

介護施設・福祉施設にAEDを設置するときのポイント

ここでは、介護施設・福祉施設で、利用者(高齢者、障がい者、児童など)や職員に万が一の事態が起きたとき、迅速・適切にAEDを使用するためのポイントを解説します。せっかく導入したAEDを有効に活用するために、最適な設置・備え・管理をしておきましょう。



AEDの適切な設置場所

AEDを設置する場合は、適切な場所に設置する必要があります。AEDの設置に望ましいのは、配置場所が簡単に把握でき、24時間誰でも使用可能で、日々の点検もしやすい場所です。

他に「AED の適正配置に関するガイドライン」では、「施設内でのAEDの配置に当たって考慮すべきこと」として、以下の条件を挙げています。

【施設内でのAEDの配置に当たって考慮すべきこと】

  1. 心停止から5分以内に電気ショックが可能な配置
    • 現場から片道1分以内の密度で配置
    • 高層ビルなどでは、エレベーターや階段等の近くへの配置
    • 広い工場などでは、AED 配置場所への通報によってAED 管理者が現場に直行する体制、自転車やバイク等の移動手段を活用した時間短縮を考慮
  2. 分かりやすい場所(入口付近、普段から目に入る場所、多くの人が通る場所、目立つ看板)
  3. 誰もがアクセスできる(カギをかけない、あるいはガードマン等、常に使用できる人がいる)
  4. 心停止のリスクがある場所(運動場や体育館等)の近くへの配置
  5. AED 配置場所の周知(施設案内図へのAED配置図の表示、エレベーター内パネルにAED配置フロアの明示等)
  6. 壊れにくく管理しやすい環境への配置

参照:一般財団法人日本救急医療財団.「AED の適正配置に関するガイドライン」

AEDの場所は施設の職員に共有を徹底するだけでなく、位置を示す掲示や案内のサインボードを掲示して、誰にでも分かりやすい工夫をします。介護施設・福祉施設では、利用者が集まる大ホールや、各部屋へのアクセスが良い場所などが望ましいでしょう。

参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの適正配置をご存知ですか?効果的・効率的なAED設置とは





緊急時対応マニュアルの整備

AED設置とともに、緊急時の対応マニュアルも整備しましょう。介護施設・福祉施設での入居者の体調変化や介護事故、自然災害などの緊急時には、安全の確保・AEDの使用を含めた一次救命処置・通報・家族への連絡など、状況に合わせたさまざまな対応が必要です。

万が一の際はパニックが起きてしまう恐れもあるため、冷静に対処できるよう対応マニュアルへの細かな落とし込みが求められます。マニュアルは専門用語の使用をできるだけ避けて、分かりやすい言葉で作成しましょう。新人スタッフなど不慣れな職員にも配慮が必要です。

マニュアルには文章だけでなく、図解も取り入れましょう。指揮系統や手順の説明には、視覚的に分かりやすいよう表やフローチャートを使用します。ただし、あまり複雑だとかえってわかりにくくなる可能性があるため、直感的に理解できるシンプルな図解を心がけましょう。

参照:東京都保健医療局.「高齢者施設における救急対応マニュアル作成のためのガイドライン」





職員への定期的な訓練

AEDを設置するだけでなく、緊急時でも適切に使用できるよう職員への定期的な一次救命の訓練の実施が大切です。訓練しておかないと、万が一の際スムーズに救命処置を実施できない恐れがあります。AEDは音声ガイダンスなどにより初めての人でも使用できるよう設計されていますが、操作に慣れていない人は使用に不安や抵抗を感じがちです。定期的にAED使用を含めた緊急時対応マニュアルの確認とシミュレーションなどの訓練を行うことで、緊急時にもトラブルなく使えるようになるでしょう。

AEDは年齢を問わず誰にでも使用できますが、乳児・未就学児と小学生~大人では、使用する電極パッドの種類や使用方法が異なる場合があるため、導入時には施設の利用者や職員にとって最適な機種の選定をしましょう。また、対象年齢によるAEDのパッドの種類や貼り方の違いなども覚えておくとよいでしょう。





AEDの定期点検

AEDの施設への設置後には、きちんと使用できるか、定期的な点検と管理が必要です。AEDは本体のほかに、パッドやバッテリーなど有効期限が設定されている消耗品があるため、定期点検を行い適切に使用できる状態を維持しなくてはなりません。

AEDの定期点検では、以下のポイントをチェックします。

  • インジケーター(AEDの状態を確認するランプ・画面)の確認
  • 消耗品(バッテリーや電極パッド)の有効期限の確認・交換
  • AED本体の保証期間(期限)の確認
消耗品には、製造・販売会社から提供される表示ラベルを付けて、交換時期が分かるようにしておき、期限が来たら速やかに交換しましょう。

また継続的な点検に加えて、製造・販売会社が設定している保証期間にも注意が必要です。保証期間は、AEDの取扱説明書や添付文書で確認できます。設置しているAEDを廃棄する際は、製造・販売元への連絡が必要です。

参考:旭化成ゾールメディカル「AEDの日常点検・管理について
              「AED更新の必要性 - 保証期間と耐用年数の違いや、日常点検と消耗品の管理を理解しよう





AEDマップへの登録

施設にAEDを設置したら、AEDマップへ登録を行いましょう。AEDを設置した際には、日本救急医療財団全国AEDマップへの登録が推奨されています。全国AEDマップは、緊急時にどこにAEDが設置されているかをWebサイトやアプリから調べられる全国地図です。AEDが使われる機会を増やし、救命率を向上させる目的で作成されました。

マップは登録制になっており、AEDの設置者または設置管理者による登録が必要です。また買い替えや廃棄などがあった場合には、情報を更新しなければなりません。登録は義務ではないものの、設置したAEDをより多くの人に役立てるため、ぜひ実施しましょう。

参照:日本救急医療財団「全国AEDマップ」



コストが課題?補助金・助成金を活用できる可能性あり

コストが課題?補助金・助成金を活用できる可能性あり

コストが課題となりAEDの設置ができていない施設では、補助金・助成金の活用を検討してみるのもよいでしょう。

ケアマネジメント・オンラインの調査によると、AED未導入の高齢者のための介護施設・福祉施設(通所介護事業所、介護老人保健施設、介護老人福祉施設)に、AEDを導入していない理由をたずねたところ、「費用について承認を得られなかった」との回答が最も多い結果となりました。

参照:ケアマネジメント・オンライン「介護福祉施設のAED設置に関する調査結果」

介護施設・福祉施設へのAED設置に関して、利用できる国の補助金・助成金は現時点でありません。しかし自治体や団体・財団などが実施している補助金・助成金を活用できる可能性があります。支援内容や金額などは個々に異なるため、各自治体や団体のホームページなどを確認してください。

AEDに関する補助金・助成金として、例えば、以下の例*があります。

  • 東京都大田区「24時間AED設置補助事業」:民間団体がAEDを設置して24時間誰でも利用できる状態にした場合、初期費用や消耗品の交換費用を補助。
  • 佐賀県嬉野市「こころにやさしいAED購入費補助金」:福祉施設などでのAED購入に補助金を出しており、購入費用の2分の1を補助。
  • 北海道新聞社会福祉振興基金:一般公募基金により、グループホームへのAED設置を支援。
  • 兵庫県川西市「自動体外式除細動器(AED)購入等助成金」:規定で決められたいくつかの条件を満たした場合に補助(個人宅や民間事業者での設置は補助対象外になります)。

   *上記の例は、2024年10月現在の公開情報をもとにしています。最新情報や詳細については、各自ご確認をお願いいたします。
参考:旭化成ゾールメディカル「AED設置に対する補助金や助成金とは?申請条件や対象を解説



まとめ

介護施設や福祉施設(高齢者・障がい者・児童向けの施設など)などでは、可能な限りAEDの設置を心がけましょう。高齢者施設では、利用者の年齢や健康状態などから心停止の発生リスクが高いと言えます。突然の心停止は、1分対応が遅れるだけで生存率が約10%下がるため、AEDを使用した迅速で適切な救命処置が重要です。また、AEDを設置することによって、利用者やその家族へ与える安心感や職員の意識向上などのメリットもあります。

施設にAEDを設置する場合は、設置場所の最適化や緊急時マニュアルの整備、定期的な訓練と点検などが必要です。また全国AEDマップへ登録すれば、施設内に限らず地域の人の命も救える可能性が高まります。

コスト面で設置をちゅうちょしている場合は、利用できる補助金・助成金がないかも調べてみましょう。突然の心停止により亡くなる人を一人でも減らすため、ぜひ介護施設・福祉施設へのAED設置を行いましょう。

AEDの導入・設置に関するご相談は、お問い合わせフォーム、またはAEDコールセンター(0800-222-0889)へお気軽にお問い合わせください。
旭化成ゾールメディカルのAEDサイトでは、「AEDについての基礎知識」や「AEDの使い方と心肺蘇生の流れ」が学べるコンテンツを多数ご用意しています。一次救命処置やAEDについての知識が得られる「AEDコラム」や、よくある疑問にお答えしている「よくあるご質問」もぜひご活用ください。